研究概要 |
本研究では,非緩衝液の微小液滴が固体表面に接する際に酸・塩基反応によって生じる液滴のpH変化量を液滴のしめす接触角から求めることで,これまで定性的にしか評価できなかった固体・液体間の酸・塩基相互作用を定量的に評価する測定法を提唱する。本年度は官能基を1種類しか持たない単純な固体表面に対象を限定して,本測定法の測定条件,測定精度を考察した。さまざまな酸・塩基特性をもつ固体表面に非緩衝液の微小液滴が接する際に生じるpH変化量を系統立てて調べた結果,以下の点を明らかにした。 1.測定条件:酸・塩基反応が起こるpHが極端に酸性または塩基性(pH3以下またはpH10以上)にある固体表面では,非緩衝液のpH変化量が小さくなるために定量的な測定は難しいものの,pH3からpH10程度の広い範囲で十分なpH変化量があり,本測定法が適用できる。 2.測定精度:本測定法によって官能基の表面密度を求める場合,その測定精度は接触角の測定誤差(±1度)で制限される。条件によって多少異なるが,1平方nm当たり数個の官能基があり,1つの官能基のイオン化にともなって水素イオンが1個放出されるという条件では,液量1μLの非緩衝液の液滴を使用した場合,およそ2倍の差の表面密度を区別できる。液量をもっと少なくすればpH変化量が大きくなるため,さらに細かく表面密度の違いを区別できる可能性はある。しかし,液量を少なくすると,液体の蒸発をはじめとするさまざまな要因によって接触角の測定誤差が徐々に大きくなっていくため,現状ではこれ以上の精度を出すのは難しい。 今後,さらに精度の高い測定法にするための課題としては,固体表面近傍での水素イオン濃度の分布など理論的な取り扱いの改善,より微量な液滴のしめす接触角の測定法の開発,および,測定結果の蓄積があげられる。
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