研究概要 |
昨年度合成に成功した、最初の有機フェリ磁性体PNNBNO[=2-{3,5-bis(N-tert-butylaminoxyl)phenyl}4,4,5,5-tetramethy1-4,5-dihydro-1H-imidazol-l-oxyl 3-oxide]について、今年度は基底状態およびその性質を詳しく調べた。昨年度、ゼロ磁場中での比熱測定により三次元的磁気秩序を同定したが、今年度は磁場中の比熱測定を行った。ピークの低温シフトおよび、高温域への強磁性的なブロードピークの出現といった、フェリ磁性に対応付けられる挙動を観測した。2K以下の交流磁化率測定を行い、低温での磁化の増大と、比熱のピークに対応する温度で磁化率のピークを観測した。単結晶を用いた異方性磁化過程の測定を検討中である。また単結晶ESRの測定を行い、室温から100K程度までのg-因子および線幅の角度依存性が、分子内でS=1種が形成される過程に対応することを明らかにした。さらに20K以下での短距離秩序に対応する線幅の増大を観測した。こうした詳細な物性測定の一方で、類似の骨格を持つ新規トリラジカルの合成を行った。対称性を落としたPIMBNOにおいては三次元的ネットワーク形成が見られたものの、分子の対称性を崩したことで分子積層様式にずれが生じ、S=1種同士の接近などが生じ、基底状態は非磁性と予想される。ベンゼン環をビフェニル環に置き換えたBIPNNBNOにおいては、フェリ磁性鎖構造が見られたが、分子内自由度(二面角)が増えたことで、フラストレーションを生む、鎖間近接・次近接相互作用が生じた。今後、高温有機フェリ磁性体を実現するためには、対称性の良い、強固な分子骨格を持つ平面性分子が好ましいことが明らかになった。
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