研究概要 |
金属-絶縁体転移の一つとして,ネスティングでは説明できない電荷密度波の発生を伴う相転移が注目されている。電荷整列と呼ばれるこの現象を理解するには,電荷の空間分布を調べることが不可欠であるが,X線による構造測定や磁気共鳴から得られる情報には限界があり,その決定は難しい。本研究では,ある種の分子振動が分子価数に依存した波数変化を示すこと,および電荷移動遷移と結合して電荷分布の対称性を反映した双極子を発生することを利用して,振動スペクトル観測による電荷分布観測を試みている。 今年度は,θ-(BEDT-TTF)_2RbZn(SCN)_4の振動スペクトルを観測し,アイソトープシフトおよび因子群解析によりBEDT-TTFのC=C伸縮振動ピークの帰属を行った。振動ピークの多重化には因子群分裂が関係するので,ピーク分裂が見られても直ちに電荷の不均化の存在を結論することはできないが,本研究では,偏光赤外およびラマンスペクトルの比較により,架橋C=C結合の同位相結合モードに注目することで,その存在を判定できることを示した。また,電子分子振動結合の弱い環状部のC=C振動の波数が,分子の価数の見積もりの良い尺度となることを明らかにした。
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