研究概要 |
光触媒反応の機構を解明するには、光励起キャリアーと吸着分子との反応過程を直接観測することが必要である。本研究では二酸化チタンに紫外光を照射した際に生成する光励起キャリアーと吸着分子間の電荷移動過程を赤外分光法を用いて時間分解観測した。 Pt/TiO_2に紫外パルス(355nm,10ns)を照射すると、4000から900cm^<-1>の広い領域で赤外過渡吸収が観測された。この吸収スペクトルは構造を持たないブロードなものであり、その吸光度は低波数ほど大きいという半導体中の自由電子による赤外吸収に特有のものであったので、この過渡吸収は紫外光照射により生成した光励起電子によるものと考えられる。また、この光励起電子は50nsから1sにおいて、いくつかの異なる寿命を持つ成分から構成されること分かった。本研究では、さらに、これらの光励起キャリアーの反応活性について調べた。 まず、光励起電子について調べた。気相にO_2を導入して、光励起電子の減衰過程を調べたところ、光励起電子の減衰速度は0-5μsの時間領域では真空中のものと大差がないが、100μs以降の時間領域では減衰が加速される様子が観測された。この結果は、本研究で観測された100μs以上の寿命を持つ光励起電子がO_2との反応に活性があることを示している。 次に、H_2Oを導入すると、0-5μsの時間領域では、電子の減衰が逆に遅くなるという結果が得られた。この結果は正孔が水との反応で消費されることで、電子・正孔再結合が阻害され、その結果、電子の寿命が長くなったものと考えられる。一方、100μs以降の時間領域では、酸素の場合と同じように減衰が速くなった。この結果は、電子は100μs以降の時間領域で水と反応して消費されることを示している。すなわち、本研究で観測された光励起キャリアーは光触媒活性を有していることが分かった。
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