本研究では、フッ素化アルキルのジアステレオ選択的ラジカル反応の開発を目指し、γ-アルコキシ-α-メチレンカルボン酸エステルへのトリフルオロメチルラジカルの付加を検討した。その結果、水素化トリブチルスズの存在下にもかかわらず、通常の水素化またはヨウ素化生成物ではなくトリフルオロメチル基と水酸基が導入された生成物を得た。このトリフルオロメチル化-水酸基化におけるジアステレオ選択性は低いものであったが、この新反応に着目し、種々の電子不足オレフィンについて同様の付加を検討した。その結果、α-メチレンエステル、ラクトン類ではこのトリフルオロメチル付加-水酸基化反応が進行することが明らかとなった。また、この水酸基の由来について明らかにするために170によるラベル実験を行い、水に由来することを明らかにした。更に、この現象はトリフルオロメチル基の電子吸引性のためであると考え、付加するラジカルについて電子吸引のものについて検討したところ、ヨウ化エチルアセテートを用いた場合にも同様のラジカル付加-水酸基化が進行することが明らかとなった。 本研究では、電子不足オレフィンへの電子不足ラジカルの付加ではラジカル付加-水酸基化が起こることを明らかとした。この新反応は、有機合成において水によるラジカルトラップが観測された初めての例で、新しい発見であり、大きな成果といえる。 ここで得られた知見は、水素化トリブチルスズの存在下にもかかわらず水によるラジカルトラップがおこるラジカル中間体の性質の解明といった理学的観点、本反応を利用した有機合成への応用といった工学的観点の双方に今後発展させていく予定である。
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