溶媒中でのイオン交換樹脂の交換機構について検討するために、XAFS法を用いて局所構造解析を行った。アンモニウムイオン基である-N^+H(CH_3)_2、-N^+(CH_3)_3をイオン交換基として持つAmberlyst A-21、A-26を臭化物イオン型にした(R-3、R-4)。これらを十分に粉砕した後、水、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミドに浸して膨潤させたものを試料とした。XAFS測定には高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光研究施設BL-10Bを利用した。 非プロトン性溶媒の場合、臭化物イオンはほぼアンモニウムイオン基近傍に存在しており、非プロトン性溶媒間では構造にほとんど違いがなかった。R-4樹脂では、溶媒分子の炭素原子と臭化物イオン間距離は3.5Å程度でアンモニウム基のメチル基の炭素原子との距離も同じであると考えられる。一方、R-3樹脂はアンモニウム基の窒素原子と臭化物イオンまでの距離と溶媒分子の炭素との距離が3.5Å程度、また、第2近接距離が4.15Å程度であり、アンモニウム基の窒素原子に結合している炭素原子までの距離ではないかと思われる。よって臭化物イオンは交換基に対してR-4樹脂とは異なる構造を取っている。これらの違いはアンモニウムイオンの電荷分布、立体構造に起因するものである。 プロトン性溶媒の場合、臭化物イオンはアンモニウム基上に留まるだけではなく、ある割合で交換基から離れてバルク溶媒中で溶媒和していると思われる。この割合を概算するために、イオン交換樹脂のXAFSスペクトルからバルク中での臭化物イオンのXAFSスペクトルを引いてバルク中の影響を取り除いた。すると、非プロトン性溶媒で得られたXAFSスペクトルと非常に類似したスペクトルが得られた。スペクトルの比較から、水やメタノール中では臭化物イオンは半分程度がイオン交換基を離れ、バルク中で溶媒和していることが明らかとなった。
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