前年度は、液膜系の電位自励発振現象を化学計測に応用するための基礎的検討として、生体膜における薬物相互作用の評価のための計測システムを確立した。本年度は、同計測システムを実際の薬物計測にまで発展させた。以下に、その概要を述べる。 (1)電位自励発振シグナルを左右する薬物と味物質の検討 昨年度扱った薬物群を更に広範囲な薬物・味物質に拡張して、それらの物質群存在時における電位自励発振を測定し、分子サイズや電荷などに基づく液膜系の化学応答の範囲を明らかにした。続いて、有機カチオン、有機アニオン、無機カチオン、無機アニオン、および中性分子からなる物質群を扱い、コンピュータソフトウェアを用いて電位自励発振波形の解析を行った結果、取り扱った範囲では物質群ごとに得られた振動波形から化学構造上の特徴をパターン認識により識別できることが分かった。このことから、一見解析困難な複雑な振動波形でも、コンピュータを用いて容易に解析できることが分かり、電位自励発振測定に基づく化学計測の実用化への重要な糸口が拓けた。 (2)生体膜における薬物相互作用の評価 前項で得られた知見に基づき、発振パターンの特徴を薬理効果や味の異なる薬物間で対比した。その結果、自律神経作用薬および遮断薬、バルビツール酸系催眠薬、局所麻酔薬などのように生体膜に働き薬理効果を示すタイプの薬物では、膜における相互作用と液膜系で得られる発振パターンとの間に対応が見られることを知った。この知見から、液膜系の電位自励発振現象に基づく薬物計測は、生体膜における薬物相互作用の評価において有用と考えられた。このことから、将来的には、味覚機能の解明・評価や新規医薬品のスクリーニングなどの分野において実用化が期待されると結論された。
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