研究概要 |
カドミウムや鉛は内分泌攪乱物質(EDCs)とされているが,EDCsとして作用する濃度範囲は定かではない。また,他の重金属イオンもEDCsとなる可能性がある。しかし低レベルでの測定は困難である。本研究では近年注目されているフローインジェクション(FI)/接触分析法によりナノモルレベルの金属イオンと配位子との相互作用の解明を行う。本年度は,銅イオンと鉄イオンの接触作用について詳細に検討し,以下の成果を得た。 1.チオール類とビタミンCの同時計測における銅(II)接触作用の利用:システインとグルタチオンなどのチオール類は,鉄(III)-フェナントロリン錯体を還元し赤色の2価錯体を生成させるが,この反応は遅い。しかし銅(II)が著しい接触作用を示すことを明らかにした。一方ビタミンCは,銅(II)が存在しなくても極めて迅速に赤色の鉄2価錯体を形成させるので,この反応速度差をFI法に導入し,迅速な両成分の同時計測法を確立した。 2.鉄イオンの接触分析:3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンは過酸化水素の存在下で酸化発色するが,鉄(II,III)が著しい接触作用を示すことを見出し,シングルppbレベルの迅速なFI/接触分析法を開発した。湖水及び河川水試料の測定を行ったところ,予め塩酸により処理したサンプルと未処理のサンプルでは,前者の方で数倍量の鉄が検出された。これは,鉄イオンと天然水由来の配位子との相互作用を示すものと考えられる。 3.この他,長光路フローセルを備えた二波長検出器の試作,大気と水圏を含めた環境中の窒素酸化物及び硫黄酸化物のモニタリング,水道水監視のためのフェノール高感度計測法,環境水中の溶存酸素の蛍光光度法についても専門誌に投稿した。
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