時間的に変動する温度環境と栄養塩の分布の時間的な不均質性が植物の成長に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的に、シロイヌナズナを用いた栽培実験を行った。1日を単位に繰り返される夜間の低温と昼間の高温という温度変化に、植物は陸上に現れて以来さらされ続けているので、たとえ植物が経験する環境の積算温度が一定であっても、暗期の高温と明期の低温が繰り返される環境や、常時一定の温度が維持される環境では、明期の高温と暗期の低温が繰り返される環境下に比べて、植物の成長は低下すると考えられる。 明期と暗期が12時間で交代し、高温期が22度、低温期が10度、あるいは恒温16度のいずれかをとるとした3条件を設定した。植物の成長は、明期の高温と暗期の低温が繰り返される環境下でもっとも大きくなった。明期暗期に関わらず一定の温度が維持される環境下の植物の成長が次に大きかった。暗期の高温と明期の低温が繰り返される環境で植物の成長は著しく阻害された。しかし、花芽の形成時期は、明期の高温と暗期の低温が繰り返される環境下と暗期の高温と明期の低温が繰り返される環境下で違いがみられなかったが、明期暗期に関わらず一定の温度が維持される環境下では、花芽の形成は遅れ、また個体間のバラツキが大きくなった。 以上から、当初に予想された通り、植物は、明期の高温と暗期の低温が繰り返される環境にもっとも適応していることが定量的に示された。また、栄養成長期間から有性繁殖期間への移行にみられる生物時計は、光環境の不均質性だけでなく、温度環境の不均質性による制御も受けていることが示唆された。
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