本研究では草本群集で実験的に検証されてきた、多様性が高い群集ほど生産性が高いという仮説を落葉広葉樹林群集において検証した。 森林群集は室内実験がほぼ不可能なこと、自然条件では多様性以外の条件が一定である場所が極端に限られるため、多様性と生産性の関係を明らかにすることが非常に困難である。しかし本研究が対象とする苫小牧演習林の二次林は約2000haの平坦地に成立しており地形や潜在植物相の差がない。また約330年前の樽前山の大噴火によって堆積した火山性降下物が林内一面に約2mの深さで存在し、かつ約50年前の洞爺丸台風によって壊滅した後に成立した林である。これらの林分は自然条件下にありながら、気候や土壌などの環境条件や遷移段階など履歴が一定であり、対立仮説の検証が可能な条件が満たされるきわめて稀な条件にあると言える。この苫小牧の二次林にそれぞれ0.2ha程度の調査区を40箇所設定し、これらの林分で8年間の生産量の算出、キャノピーアナライザによる葉群構造の測定、土壌中の栄養塩の測定を行った。また各林分に計200個の1m^2のサブコドラートを設け、すべての林床植物を刈り取り種ごとに乾重量を測定した。これらにより、落葉広葉樹林の生産性は構成樹木種数と胸高断面積合計の2変量で表されることが明らかとなり、樹木種数が多いほど生産性は高かった。一方で樹木の種多様性は垂直的な葉群構造の発達をもたらし、林床の光資源を低下させることで草本群集の多様性を低下させていた。また栄養塩の少ない林分でも草本群集の多様性は低かった。機能群ごとに対応の仕方は異なっていたが、結果的に草本群集全体の多様性は、樹木の多様性勾配の中程度でもっとも高くなるというパタンを示した。
|