研究概要 |
本研究費の助成を受けておこなう研究は,希少種のように生物集団の個体数が有限であることに大きく影響を受けながら,さまざまな時空間パターンによって生じる生息地破壊が,生物集団の絶滅と存続にどのような影響を与えるかについて調べることである.初年度の平成12年度では,空間的離散システムを解析するための数理モデルとしてよく用いられる格子モデルを用いて,各々の生息地破壊の大きさが大きい場合と小さい場合とでは平衡状態として存続する個体群密度の大きさはどのように違うのか,それらの生息地破壊が動的である場合にはどうなるのか,また,生息地破壊が空間的に相関がある場合にはどうなるのか,ということについて調べた.さらに,個体数が有限である集団の絶滅確率と絶滅待ち時間の評価をおこなった.これらの数理モデルから得られた知見は,生息地破壊の大きさと平衡個体群密度の大きさの関係については,合計で同じ大きさであれば各々の生息地破壊は大きいほど個体群密度は大きく維持できることや,生息地破壊は動的である場合と静的である場合とではダイナミクスの結果が異なることなどが明らかになった.また,有限個体数の絶滅待ち時間の漸近的挙動に関する定量的な評価を与えることに成功した.これらの結果の一部については,現在投稿中の論文の中にまとめている.今後の課題としては,有限サイズ集団のダイナミクスに,生息地破壊の空間構造の違いを導入したモデルについての数理的な解析を発展させるとともに,これらのモデルの妥当性を評価するために,論文や学会等で発表されている野外調査のデータとの比較検討をおこなうことが挙げられる.
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