平成12年度は、寄生者と宿主の代表的な関係として鳥類の托卵系を想定し、量的形質である卵模様の共進化に関する数理モデルを構築して解析を行った。量的形質の正規分布を仮定しない、より自由度の高いモデルの枠組みを用いることにより、従来研究されてきた量的遺伝のモデルではとらえられない様々な興味深い現象が明らかになった。以下に今年度の研究成果の要点をまとめる。 1) 集団内に連続的な変異を持つ量的形質が寄生者と宿主集団中でどのように変化するのかについて、集団平均形質の進化速度の解析的な導出を行った。一般に集団内変異が大きく、寄生者と宿主の生存率が低いほど平均形質の進化速度は高くなる。 2) 当初は集団内に連続的な変異が存在したとしても、十分時間がたつにつれて変異は小さくなり、量的形質の分布はいくつかの点分布に収束する。つまり、離散的な形質のみが生き残り、寄生者宿主集団ともに複数の離散的な形質のみを有するに至る。生き残る離散形質の個数は、宿主が托卵を排除する能力の感度に依存しており、宿主がより厳しく托卵を判別するほど生存形質の個数は多くなる。 以上の結果を国際行動生態学会(2000年8月チューリヒ)で発表し、国内外の研究者と意見交流を行った。現在、この時点までの研究成果を論文としてとりまとめている最中である。 上の結果は、一般の寄生者宿主系であるNicholson-Baileyモデルについても成り立つことを既に確認しており、寄生者系一般に対しても成り立つと思われる。来年度は、寄生者と宿主の卵模様の画像データを入手し、実際の野外で卵模様の共進化が起こっているかどうかの検証を行う予定である。また、寄生者系以外の関係-競争系、捕食系-についても同様の解析を行い、量的形質に関する共進化の一般的な理論的枠組みを組み立てる予定である。
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