平成13年度は、昨年度に実施した量的形質に関する共進化モデルの解析をさらに推し進めた。理論解析を進めると同時に、野外での寄生者宿主の関係(カッコウとその宿主)に関するデータを収集し、モデル解析結果と実際の系との比較検討を現在進めている。以下に今年度の研究成果の要点をまとめる。 1)積分差分方程式で記述される本研究のモデルは、遺伝変異が集団内に十分存在すると仮定した場合、従来の量的遺伝モデルとの接点を持つ。しかし、数学的な関連性は未だ不明な点が多く、今後の理論的研究が必要である。また、本研究では卵模様のように量的形質が親から子へそのまま受け継がれる場合を解析したが、有性生殖に一般的な交配による量的形質の変化の効果をモデルに組み込むアイデアをモデル解析の過程で得ることが出来た。現在、その数理的取り扱いについて研究中である。 2)進化一般を議論する新しい理論的枠組みとして、理想自由進化モデルを提唱した。従来の多くのESSモデルの様に集団を一様な「点」として取り扱うのではなく、変異を持った「分布」として取り扱うことで、より柔軟な理論解析が可能になる。 3)托卵鳥系における寄生者と宿主の卵模様(量的形質)の変化を実証することを目指して、2001年6月に琵琶湖にてカッコウの宿主であるオオヨシキリの卵の写真を撮影し、卵模様の画像データを入手した。現在画像データの定量的解析を進めており、共進化の実証を試みている。 4)2年間の研究の取りまとめとして、2001年7月に開催された、数理生物国際会議にて研究発表を行い、内外の研究者と議論を交わした。本研究成果は論文として国際誌に投稿し、査読中である(2001年11月Evolution誌に投稿済み)。 5)寄生系以外の系でも、量的形質を巡る共進化が積分方程式を用いた基本的に同じ枠組みで理論的に取り扱い可能であることを明らかにした。 平成12・13年の2年間で量的形質の共進化に関する理論的研究を大きく推進することが出来た。同時に、今後取り組むべき新たな課題も浮かび上がってきた。この2年間の研究補助をきっかけに、更なる理論的解析を推進していきたい。
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