本研究では、南西諸島(沖縄本島・西表島)における亜熱帯林の林分構造と種組成を調査解析した。本論では、南西諸島のような閉鎖された島環境では、その森林生態系は規模も小さく、人為影響に対しても脆弱である。その一方で、島環境は生物学的に特異な環境を有しており、その学術的価値は極めて高い。将来的に南西諸島の森林生態系を適正に利用あるいは保全するためには、地域に特異な生態系の動態メカニズムを理解することが不可欠である。本研究の目的は、希少な野生生物の宝庫である亜熱帯林の維持機構を生態学的に明らかにし、その上で森林の保全管理策を提示することである。特に今年度は沖縄本島の調査をとおして、亜熱帯林の遷移と再生過程を明らかにした。具体的な成果として以下の諸点が挙げられる。沖縄本島北部(通称ヤンバル地域)で様々な林齢(0-70年以上)の林分を継続調査し、林木個体の成長・枯死動態を明らかにした。成長動態と個体間の相互作用は、林分の発達段階に応じて異なっていた。このことより、この地域の亜熱帯林の定常状態が単純なパターンとして記述されることが極めて困難であることが予想された。つまり、1つの系列に沿うようなプロセスで林分の再生や遷移は進行しないということである。この要因として、立地の環境条件(地形・水分・養分)が想定された。環境条件が亜熱帯の構造・組成に与える影響を把握するための調査も行った。その結果、林分の構造属性や種多様性は、地形パターン(尾根・斜面・谷)に対応して著しく異なることが判明した。つまり地形パターンが、土壌の水分・養分環境に影響を与えることによって、地形に対応した多様な林分が生成されると予想された。この仮説については、環境条件を実測した上で今後検証する予定である。
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