本研究は暖温帯から熱帯域にかけての植生帯の移行メカニズムを検討するための基礎として、キーとなる優占種イタジイ(スダジイ)の初期更新動態を明らかにしようとした。具体的には、種多様性の低い高緯度亜熱帯林(奄美大島)、中緯度亜熱帯林(沖縄本島)、種多様性の高い低緯度亜熱帯林(西表島)の各林分において、イタジイの個体群動態と他種との相互作用を比較解析することを目的とした。初年度は、沖縄本島において採取した種子の発芽特性(発芽率・発芽の温度依存性)を実験によって明らかにし、次年度にかけては、野外での種子散布・定着過程を調査した。 すでに筆者は、1996年からほぼ3年にわたって沖縄本島北部ヤンバル亜熱帯林に永久方形区(総面積で約3ha)を設定して、林木の成長と枯死動態を調査してきた。主要樹種イタジイについては成長・枯死等の個体群動態パラメータが把握されている。しかし、種子散布から実生定着に至る初期更新動態は手付かずであった。今回の補助金を受けて、林分レベルの動態モデルを構築する上で不可欠な初期動態のパラメータをうる事ができた。例えば、林齢毎の種子トラップデータから、林分発達に伴う林分レベルでの種子生産量を定量化できた。また林齢に伴う、実生の定着率を明らかにできた。これらのデータは、時系列に沿った更新特生であり、林分の更新動態を数理的なモデルで記述する上で、重要なパラメータである。 一方、野外での調査では、リターの蓄積と移動が種子から実生への更新動態に与える影響を明らかにした。林床に落下するリター及び、落下後のリター水平移動を定量化できる実験装置を設置し、リター蓄積とその移動を明らかにした。その後、種子散布パターン、親木分布、リター蓄積と移動等が、実生分布や生残様式に与える影響を統計的に評価した。 以上のデータを用いて亜熱帯林におけるイタジイ個体群動態を記述する動態モデルを現在考案中である。これは、南西諸島の他地城と比較する上でベースとなる個体群動態モデルである。
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