ヤナギルリハムシの多化性個体群はヤナギの質が低下すると産卵を抑制する性質を持っている。この性質は葉の質が最も低下する主に夏に発現するため、夏には産卵数が著しく減少し、それに伴って成虫の個体数も減少する。やがて秋にヤナギのシュートが成長し、新葉が展開すると、葉の質はよくなるため産卵は再開し、成虫の個体数もそれに伴って増加する。 この性質は幼虫の生存や発育に不適な時期を乗り切るための適応と考えられる。しかし、この性質は発育や繁殖に利用できるシーズンが長い多化性の個体群では、世代間で寄主の質が大きく変動するため適応的であるが、1化性の個体群では適応的ではない。なぜならば、1化性個体群は1年に1世代しかないため、繁殖を抑制する時間的な余裕がないだけでなく、寄主の質が1世代の間だけではそれほど大きく変動することはないと考えられる。そのため、このような寄主の質に反応して繁殖を抑制する季節的な表現型可塑性は、1化性個体群では不必要な性質であると考えられる。もし表現型可塑性に維持コストが存在するとすれば、1化性個体群では表現型可塑性は不必要なだけでなく、コストまでかかる形質として消失しているはずである。ところが、北海道石狩市の石狩川河川敷に生息するヤナギルリハムシは年1化、あるいはできてもせいぜい2化であるにもかかわらず、累代飼育実験の結果、このような性質をもっていることが明らかとなった。野外調査の結果では、北海道石狩では、シーズン終了までに本種のメス成虫は繁殖不活性状態を発現させることはなかった。これらの結果は、寄主の質に反応して繁殖活性を変化させるという可塑的性質には維持コストがない、あるいはあっても小さいことを示唆した。
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