我々が単離したシロイヌナズナのdefective in anther dehiscencel(dadl)突然変異体は開花後も葯が裂開しない突然変異体である。この変異型表現型はジャスモン酸の塗布により正常型に戻ることから、原因遺伝子DAD1はジャスモン酸の生合成に関与すると予想していた。クローニングの結果、DAD1はリパーゼと相同性のあるタンパク質をコードしていることを明らかにしていた。 本研究では、DAD1タンパク質の機能を明らかにすることを目的として研究を行った。まず、DAD1タンパク質を大腸菌で発現させ、その酵素活性を調べた。その結果、DAD1タンパク質はホスホリパーゼA1であることがわかった。植物からホスホリパーゼA1が同定されたのは初めてである。次にGFPとDAD1の融合タンパク質を作製しパーティクルガン法で細胞内局在部位を調べた。その結果、DAD1は葉緑体に存在するタンパク質であることがわかった。さらにDAD1とジャスモン酸合成との関連を調べるため、DAD1遺伝子の発現部位である蕾のジャスモン酸含量を調べた。その結果、dad1突然変異体では蕾のジャスモン酸含量が著しく減少していた。以上の解析結果より、DAD1は葉緑体のリン脂質を分解するホスホリパーゼA1で、ジャスモン酸の生合成過程を触媒する酵素であることが示された。ジャスモン酸の生合成は脂質から遊離リノレン酸を切り出す過程で制御されていると考えられており、この反応を触媒するリパーゼが葉緑体に存在することは以前から予想されていたが、これまで誰もその実体を捉えていなかった。本研究によりDAD1がまさにこのリパーゼであることが明らかにされ、世界初の報告になった。
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