ケツルアズキ発芽子葉細胞においてde novo合成されるシステイン・プロテイナーゼ(SH-EP)は不活性な前駆体として小胞体先端部に集積し、プロテイナーゼ小胞により液胞に輸送される。このプロテイナーゼ小胞の形成機構を解明することを目的として研究を行った。SH-EP(KDEL+)およびそのKDEL配列部分を欠失させたSH-EP(KDEL-)を発現する形質転換アラビドプシスを作製したところ、SH-EP(KDEL-)を発現させた形質転換アラビドプシスは種子(T1)発芽後、本葉を2-4枚出すまでは成長したが、その後枯死した。一方、SH-EP(KDEL+)を発現させたアラビドプシス植物体は、抽だい時までは野生株とほぼ同様に成長したが、抽だい後に野生型株とは異なり、茎頂の伸長が早い時期に止まり、側枝が発達し、脇芽は著しく伸長した。また、花弁の脱落やロゼット葉の黄化が早く始まった。形質転換アラビドプシスにおけるSH-EP(KDEL+および-)の細胞内局在性を免疫組織化学的手法により観察したところ、SH-EP(KDEL-)は細胞外に分泌され、SH-EP(KDEL+)はプロテイナーゼ小胞と同様の直径100-500nmの小胞に高度に集積していた。以上の結果から、SH-EPがプロテイナーゼ小胞に集積するにはSH-EPのC末端KDEL配列が必要であることが示された。また、細胞外に分泌されたSH-EP(KDEL-)が植物体に致死性の影響を与えたことから、プロテイナーゼ小胞の形成が植物体の正常な生長に必須であることが示唆された。今後は、緑色蛍光タンパク質(GFP)によりプロテイナーゼ小胞を可視化し、プロテイナーゼ小胞形成の分子機構の解析をさらに進めていく予定である。
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