昨年度の成果に基づき、本年度は出芽酵母γチューブリンポリペプチドのT7と名付けられた領域の機能について、その重要性と細胞内局在における役割について検討した。まず、数種の出芽酵母γチューブリン遺伝子の比較を行なったところ、T7領域が極めて強く保存されている領域であることがわかった。またチューブリンの立体構造における考察から、T7領域を含め、出芽酵母のγチューブリンはマイナス端側(微小管が形成されるのとは反対側)の分子表面に種特有の配列が集中していることがわかった。T7領域の重要性を確認するため、いくつかの保存アミノ酸配列の変異体を作製した。そのうち酵母でのみ保存しているチロシンを他のアミノ酸に置き換えると、その変異体は温度感受性を示し、高温環境下では分裂が阻害され、G2/M期に停止した。この領域はマイナス端側の分子表面であることから、他の分子との相互作用に重要な場であることが予想され、また活性の調節に関わるのではないかと推定される。またこれまでの結果より、この領域には核局在に関与している可能性があった。その可能性を検証するため、T7領域にいくつかの変異を導入し、核への局在への影響を調べた。今のところ部分的な影響は見られたが完全に核への局在を抑えることはなく、T7領域の他の保存配列に変異を導入し影響を調べている。最近の研究ではプレフォルディンという分子シャペロンがこの領域と相互作用を持つと言われており、現在、プレフォルディンとγチューブリンの核局在の関係についても検討中である。一方、この領域を含む断片を酵母中で発現させると微小管阻害剤であるベノミルに感受性が高くなることがわかった。プレフォルディンもベノミルの感受性に大きく影響することが知られている。このベノミル感受性にはT7領域の変異が影響することを確認しており、今後徴小管阻害剤の作用メカニズムを解析する上で興味深い結果が得られた。
|