ウミヒドラ科のStylactaria misakiensisの未受精卵に1波長励起1波長測光タイプのカルシウム蛍光指示薬であるCalcium Green-1 dextranを顕微注入し、微小チャンバー内で受精させる方法を検討した。その結果、注入卵のほとんどが正常に受精し、プラヌラ幼生にまで発生する条件を見い出すことができた。この方法を用いて受精時の卵内カルシウムイオン濃度変化の時間的パターンを調べたところ、受精直後からゆるやかに上昇し、数分後にピークに達した後、数分かけてゆるやかに下降していくという変化が観察された。これは、三胚葉性の体制を持つ高等動物では報告されていないパターンであり、もし二胚葉性の刺胞動物に特有のパターンであるとすれば興味深い。ただし、S.misakiensisの卵は受精後に著しい形態変化を起こす(いびつな形がきれいな球状に変化する)ことから、正確な空間的パターンを知ることはできなかった。現在、2波長励起1波長測光タイプの蛍光指示薬であるFura-2を用い、空間情報についての解析を行っている。 新規の材料としては、タマクラゲ科のCytaeis uchidaeの飼育方法を確立し、一年を通して受精可能な卵や精子を得ることに成功した。この種では、卵が非常に透明であるため、核などの構造を蛍光試薬で容易に生体染色することができた。また、上記のS.misakiensisとは異なり、卵が受精時にほとんど形態変化を示さないこと、卵への顕微注入が比較的容易であることも分かった。平成13年度には、この2種の海産ヒドラを併用し、受精時のカルシウム変化の詳細な記録とともに、その制御機構を解析していく予定である。 花虫綱では、タテジマイソギンチャクの卵への顕微注入に成功したが、今のところ注入卵を安定して発生させられる段階には至っていない。
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