2000年度に行った日本国内の現地調査と標本調査によって、以下の知見が得られた。 イブキトラノオ属のイブキトラノオでは、日本国内に北方系統と西方系統の2型が認められるというHara(1952)の指摘が裏付けられた。両者の系統は、従来葉形の違いにより認識されていたが、標本と生植物の調査の結果、花序の各節に生じる花数の点でも区別できることが明らかとなった。両系統は本州中部地方において分布が重なるが、生育環境の違いによりすみわけていた。また、霧ヶ峰等一部の山系では、両系統の中間的形質をもつ標本が見られ、両者間での交雑が推定された。国外における両系統の分布についてはこれまで不明であったが、北方系統は南サハリン、からロシア沿海地方を経て韓国東部の雪岳山に至る日本海沿岸地域に分布し、西方系統は、韓国済州島と朝鮮半島の黄海沿岸、中国北部〜東部にかけて分布していることが明らかとなった。 シソ科では、クルマバナ類(Clinopodium)において、従来認識されていなかった大形の花を有する植物が本州中北部の日本海側の低地に生育していることが確認された。この植物は、朝鮮半島から中国北部に生育しているが、従来日本国内から記録されていない植物に類似した点が認められ、何らかの関連性が推測された。 キク科アキノノゲシ属のチョウセンヤマニガナは、従来日本では九州北部にのみ分布することが知られていたが、新たに九州の中部高原や本州の一部にも生育が確認された。また、日本全土に分布する近似種のヤマニガナとは、少なくとも九州においては花の色が明瞭に異なることが明らかとなった反面、従来区別に用いられてきた形質がしばしば不安定であることもわかった。 これらの植物について、生植物やおしば標本から系統解析のためのDNAサンプルを得た。
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