タデ科のイブキトラノオ類には環日本海地域に2種(Bistorta major、 B.plumosa)が認められた。従来日本産のイブキトラノオ類は大陸産の型との関係が不明のまま暫定的にB.majorの変種または亜種とされてきたが、本研究の結果日本国内のものは2亜種に分けられ、葉形以外に花序の構造においても区別できること、各亜種は中部日本を境に北と西にすみわけており、中部日本の一部では中間型が見られることがわかった。また、北日本の型は北朝鮮東部からロシア沿海地方を経て南樺太に分布すること、西日本の型は韓国の済州島にも同じ型が分布し、さらに中国東部〜北部一帯にこれに極めて近い型があることが明らかとなった。B.plumosaは、従来B.majorの亜種とされることが多かったが、本研究の結果この種は独自の性表現を持ち、独立種として認められることが明らかとなった。タデ科では、他に、従来北半球に広く分布するRumex maritimusに当てられていた日本のコガネギシギシに地理的にすみわけた2型があり、青森県と北海道の型(狭義のコガネギシギシ)はR、maritimusの独立の亜種とされるべきものであること、関東地方と四国でコガネギシギシとされている植物は中国南部に生息するR.trisetiferであることが判明し、かつ従来北海道にのみ知られていたカラフトノダイオウR.gmeliniiが本州中部にも産することが明らかとなった。 シソ科のクルマバナ類(Clinopodium chinense)は従来日本では2種が認められていたが、1新種を含む4種に分けることができた。キク科アキノノゲシ属では、日本産チョウセンヤマニガナLactuca raddeanaは大陸のものや近縁のヤマニガナL.elataとは花の形質が異なることがわかり、またニガナ属では、ニガナIxeridium dentatumとその近縁種について、従来認識されていないいくつかの型を認識し、また従来知られていなかった分布地域をも明らかにした。
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