本研究は、最も原始的な植物の一つであると考えられている、原始紅藻類に属する単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeを用いて、cDNAの塩基配列の解析を行うことが目的であった。(1)植物として存在するために最小限の遺伝子のセットを探すこと、(2)相同性検索や系統解析により、遺伝子の間の系統関係を探ること、(3)細胞核DNAに存在する遺伝子の中には、高等植物では失われてしまった物もある。この中には、現存する遺伝子よりも性能の良い物、有用な遺伝子を多数含んでいることが考えられる。 本年度は、cDNAの解析をさらに進めた。また、新たに、完全長cDNAライブラリーの作製も行った。トータルRNAを抽出した後に、核由来のmRNAの5´端に付加されるキャップ構造を認識して、完全長のmRNAのみを取り出してからcDNAを合成し、クローン化を行うという、「オリゴキャップ法」でcDNAの作製を行った。この方法については、東京大学医科学研究所、菅野純夫教授、鈴木穣博士の指導を受けた。 本研究で行ったcDNAの塩基配列の解析と、その配列の相同性検索を行った結果の主な物を以下に示す。(1)光合成に関与する遺伝子は、色素体に存在する遺伝子と細胞核に存在する遺伝子の両方がある。細胞核に存在する遺伝子であっても、光合成に関与する遺伝子は、真核生物由来であるというよりも、ラン藻由来であると考えられる。(2)遺伝子のうちの、約60%が機能未知の遺伝子で、他の植物との類似性のある物の他に、線虫やショウジョウバエと最も相同性の高い遺伝子も存在した。このことは、進化の過程で、動物にも植物にも存在した遺伝子で、一方のみに残った物、進化の過程で、別々に付加された遺伝子も多く存在するということを示している。
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