海草類集団の遺伝子交流の特性について明らかにすることを目的とし、まず、陸中沿岸におけるスゲアマモ集団についてRAPDマーカーによる遺伝的変異を検出し、その遺伝子交流について考察した。 岩手県山田湾の3集団(龍ヶ崎、大島、浪板崎)、同県大槌湾の2集団(室浜、箱崎)、青森県陸奥湾の1集団(浅虫)、計127個体について、60種のプライマーのうち、9種のプライマーにおいて20個の解析に有効な増幅断片情報が得られ、AMOVA(Analysis of Molecular Variance)解析により各集団レベルでの変異の程度を示した。さらに個体間及び集団間のUPGMA類似度図を構築した。 AMOVA解析の結果、集団内よりも集団間に多くの変異がみられた。また、湾間と湾内の集団間ではそれほど大きな差は見られなかった。これらから、今回のスゲアマモでは集団間の分化が大きく、遺伝子交流が限られていることが明らかになった。これは、これまでの種子植物の数値と比較すると、自殖性種に近い程度の値であった。 集団間のUPGMA類似度図において、大槌湾と山田湾の集団は、湾毎に単一のクラスターを形成しなかった。また、個体間類似度図において、箱崎集団は山田湾3集団と混在してクラスターを形成した。これらは、近距離の集団間においては、地理的な距離と交流の程度は単純な関係にないことを示している。 以上をまとめると、今回のスゲアマモ集団においては、 ・集団間分化が大きく、集団間の遺伝子交流の程度は小さい。 ・同様な内湾にあっても、集団によって交流の程度が大きく異なる→湾内の微環境が遺伝子交流に影響していると考えられる。
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