伊豆シャボテン公園(静岡県伊東市)において飼育されているワオキツネザルの集団を対象として、個体の識別、社会行動等の調査など、基礎となるデータの収集を行った。調査開始時点で伊豆シャボテン公園においては、7歳から20歳までのオス3頭とメス5頭、年齢不明のオス1頭が飼育されていた。これらの個体を一定時間追跡し、同時にその音声を録音することで、個体間の関係に関するデータと、再生実験の基礎となる音声データを収集した。 これらの個体は池の中の小島で飼育されている。島のなかの木のあいだにワイアーを張り、プラスチック板を切って作成した猛禽類のシルエットを滑らせ、反応を調べたが、結果はほとんど警戒音の発声や回避反応がみられなかった。シルエットの形や滑らせるスピードなどに改善の余地があり、今後の課題であるといえる。また、実験とは別に自然な状態でどのような場合に警戒音の発声がみられるかについて観察した。園内で飼育されているインドクジャクに対しては対猛禽類の警戒音を発するが、クジャクが飛んでいる場合と近くの枝にとまっている場合では若干の違いがみられた。また最近園内でチャイロキツネザルを放し飼いにしており、時折ワオキツネザルの島の近くに接近しているが、このチャイロキツネザルに対して対肉食獣の警戒音をあげるところが観察された。どのような基準でかれらが警戒音を使い分けているのか、今後実験と平行して観察によっても明らかにしていきたい。 伊豆シャボテン公園の個体群との比較のため、八重山民俗園(沖縄県石垣市)において飼育されているワオキツネザルについても予備調査を行った。現在この個体群は一部の移動が予定されており、本格的な調査は移動の詳細が明らかになるのを待つことになった。 過去にマダガスカルにおいて行った野生ワオキツネザルの研究成果や、最近の音声コミュニケーションについての比較行動学的研究をふまえ、ヒト言語の進化について考察した。
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