すでに収集していた野生チンパンジー(Pan troglodytes)の毛づくろいデータの整理、分析をおこなうとともに、日本モンキーパークで、複数の霊長類種の毛づくろい行動の予備的観察、データ収集をおこなった。また、膨大でかつ散乱している毛づくろい関連の文献を多数収集し、多少の分析をおこなった。これまで、「毛づくろい」は単純に量的に比較され、アドホックに同一カテゴリーのものとされていたが、実際に、毛づくろい行動の質的側面を種間で比較してみるとさまざまな違いがあることが明らかになってきた。例えば、フランソラングール(Trachypithecus francoisi)は頻繁に顔(とくに目の周辺)に対する毛づくろいをおこなうが、近縁のシルバーラングール(T.cristatus)はほとんどおこなわかった。また、チンパンジーは頻繁に相互毛づくろい(同時にお互いを毛づくろいする)をおこなうが、近縁のボノボ(P.paniscus)はほとんどおこなわない。このように、必ずしも系統的に近い種が、似たやり方で毛づくろいするわけではないことが明らかになった。逆に、チンパンジー、テナガザル(Hylobates)やクモザル(Ateles)といったブラキエーターが毛づくろいの際に頻繁に手を上げるが、ヒヒ(Papio)やマカク(Macaca)などの地上性四足歩行者は上げない(上がらない)など、形態的な特徴によって毛づくろいのあり方が異なることも示唆された。しかし、これらの結果の解釈は必ずしも簡単ではない。来年度以降も継続観察して、いったい何がこのような違いを生み出しているのかを明確にしていきたい。データはいまだに分析段階であるが、チンパンジーに特異的な対角毛づくろいに関する部分は、ドイツでおこなわれたシンポジウムで報告をおこない、内容は単行本の一章として来年度刊行予定である。
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