本年度は主に1次元フォノニック結晶におけるフォノン伝播に関する研究を行った。その際、次の2つのアプローチを用いた。一つは、転送行列法を用いて、フォノン波束の時間発展シュミレーションを行い、有限の大きさをもつ1次元フォノニック結晶におけるフォノンの群速度の解析を行った。その結果として、無限に広がった1次元フォノニック結晶でのフォノン分散関係における周波数ギャップに対応する周波数域において群速度が異常な増加を示すこと、また、周波数ギャップ端においては、透過波と反射波の重ね合わせによる定在波が生じることによって、群速度が極端に減少することを見いだした。熱伝導度には、状態密度が大きいことから、後者が支配的である。また、解析的な計算も同時に行い、群速度の異常な増加の物理的な要因も明らかにした。2つめは、フォトニック結晶におけるフォトン伝播の研究で最近よく用いられているFDTD時間領域差分法を用いて、1次元および2次元フォノニック結晶におけるフォノンの分散関係および状態密度を計算した。フォノン状態密度は熱伝導度の計算において必要不可欠である。このFDTD法は、最近の実験で用いられている1次元フォノニック結晶にみられる音響不整合の大きい物質からなる系に対して、きわめて有効である。また、この方法を用いて、最近Vinesらによって行われた表面フォノンの伝播実験の数値解析も行った。その結果、彼らの実験の大部分の結果を数値的に再現する事ができた。
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