本年度は主に次の2つの系についての理論的研究をおこなった。一つは回転させた2つのバルク結晶を一つの界面で結合させたフォノニック結晶、もう一つは、昨年に引き続き、一次元フォノニック結晶である。前者の系では、モンテ・カルロシミュレーションに基づく方法を用いて、その系をバリスティックに伝導するフォノンの集束パターンが、単なる二つのバルク結晶おける集束パターンの重ね合わせではなく、フォノンのモード変換に伴う複雑な集束パターンを形成することを示した。フォノン集束効果はフォノンの群速度と密接に関係があり、その系のエネルギー伝播(熱伝導現象)を明らかにするのに重要な因子である。後者の一次元フォノニック結晶においては、分子動力学法に基づいて、フォノニック結晶の各界面に垂直な方向に伝播するフォノンをシミュレートすることによって、熱伝導率の計算をおこなった。結晶構造は、最近行われた実験で用いられた系をモデル化したGaAsとAlAsを各格子点に配置した面心立方格子構造で近似し、非調和項として三次と四次の項を取り入れた。結果として、実験で観測された垂直熱伝導率の異常な低下は、非調和項によるフォノン-フォノン散乱のみでは再現できなかった。しかし、実験で生じうる界面のランダムな乱れを導入することにより、熱伝導率の異常な低下を理論的に再現することができ、そのフォノニック結晶の周期長依存性や温度依存性も半定量的に再現することができた。よって、一次元フォノニック結晶における垂直熱伝導率の異常な低下は、界面のランダムな乱れが主な原因であることを明らかにした。
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