(1)X線と可視光を同時に透過させることができる窓を持ち、外部電場が印加できる液晶用のセルの試作を行った。液晶セルの基板と平行な面内で任意の方向に電場がかけられるように電極を付けるが、電極の配置の最適化については来年度も継続して行う。 (2)配向の印加電圧の依存性を調べるための可視光用の偏光顕微鏡観察システムを立ち上げた。光学素子としての開発に重点をおいているため、大きなシングルドメインを形成する液晶の選定は来年度も継続して行う。 (3)放射光実験施設において、配向させた金属錯体液晶のX線領域に対する偏光依存性を調べるためのX線偏光制御光学系の開発を行った。この光学系は上流からHar-Rodrigues型X線偏光子、透過型X線移相子、前者とX線の散乱面を正反対にとった透過型X線移相子の順に配置されている。二枚の移相子によって放射光のもつ角度発散による収差を軽減することができる(収差補償型X線移相子)。この光学系では、横偏光99.99%、縦偏光98.0%、左右の円偏光99%以上の高純度な偏光を生成することができる。収差補償型X線移相子の下流に、イオンチェンバー(Io)、試料、イオンチェンバー(It)を配置し、X線偏光制御光学系で偏光状態をスイッチングしながら吸収を測ることによって、直線二色性と円二色性を精度良く測定することができる。金属錯体液晶について測定する前に素性がより単純な金属錯体単結晶Co(en)_3・BrH_2OについてコバルトK吸収端(7709eV)の近傍で直線二色性と円二色性を分光学的に調べた。スペクトルの試料の光軸方向の回転依存性は、直線二色性は90度回転で反転し、円二色性は変化の無いことを確かめた。つまり、円二色性の測定に、その大きさよりも10〜100倍大きな直線二色性の影響が極めて少ない高精度な測定ができた。金属錯体単結晶の測定を来年度も継続して行う。
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