本年度は下記のことを行った。 (1)光学素子が光軸から外れた視野でも機能するかどうか検証するための、X線偏光顕微鏡を開発した。X線光学素子として利用する条件で、配向の状態やシングルドメインの大きさの測定を試みた。用いた試料が分子量が大きい物質だったため、画像化のためのフォトン数不足の問題が新たに生じた。このため、吸収の大きな試料でも測定が可能なゾーンプレートを用いた新しいX線偏光顕微鏡を開発している。この装置は現在も開発中なので今回は、可視光領域の偏光顕微鏡を用いて、比較的大きなシングルドメインを形成することを確認した。このことから、金属錯体液晶はX線光学素子として十分に利用できる可能性があることが分かった。 (2)X線のエネルギー、液晶に印加する電圧を制御して、偏光状態のスイッチングを高速に行うための、X線偏光スイッチング光学系の開発を行った。この光学系は上流からHar-Rodrigues型X線偏光子、偏光状態のスイッチングが可能な収差補償型X線移相子、X線偏光子検光子の順に配置されている。本装置を用いて、金属錯体液晶の光学素子としての性能評価を行った。金属錯体液晶自体の複屈折と二色性の特性によって使用できるエネルギー領域に制限が加わるが、金属錯体液晶は高速に偏光状態の偏光を生成する有用なX線光学素子になることが示された。 今後は、高速かつ任意偏光を生成できる新光学素子の特徴をいかして、X線の偏光状態をプローブとして物質の相転移現象の研究へ発展させたい。
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