研究概要 |
磁性金属細線の電気伝導を,1.原子レベルの構造,2.伝導電子と局在スピン間に働く相互作用に焦点をあて調べた。以下に研究の概要を記す。 1.くびれを持つ金属細線において,くびれの構造を変化させながら電気伝導の計算を行った。金属細線が両側から引っ張られるにつれて,くびれの部分が細くなっていく様相を格子模型によりモデル化し,タイトバインディング模型を適用した。 コンダクタンスは,細線の幅方向の閉じ込めによって生じるサブバンドの電子状態を用いて,よく理解できる。くびれ部分と電極の結晶方位が同じ場合には,くびれ部分の長さがサブバンドのフェルミ波長にくれべて十分長ければ,コンダクタンスはほぼ量子化された値をとる。しかし,くびれ部分と電極の結晶方位が異なる場合には,電子は接触面で散乱され,コンダクタンスは量子化値よりも小さな値をとる。また,磁性細線において,多数スピンあるいは少数スピン電子のs-d混成ギャップ中にフェルミ準位が位置すると,コンダクタンスは量子化最小単位となりうる。 2.磁性体が微小となると,スピンの揺らぎを無視できなくなる。伝導電子はこのスピンと強く相互作用するため,揺らぎによって散乱される。二重交換模型を用いて,伝導電子と局在スピン間に働く交換相互作用を量子的に取り扱い,コンダクタンスおよび磁気抵抗を計算した。 交換相互作用によって,伝導電子のスピンが反転する散乱が生じるため,磁性金属細線におけるスピン依存伝導は大きな影響を受ける。このスピン反転散乱のため,磁性細線を用いたトンネル接合における磁気抵抗効果は,交換相互作用によって減少する。
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