本研究課題では、酸化物強誘電体の一種であるチタン酸バリウム薄膜をシリコン基板上に作成する際に問題になるバリウム(Ba)-シリコン(Si)反応について、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、主に構造と言う観点から研究を行なった。その内容は次の通りである。BaをSi(100)表面上に吸着させると様々な表面超構造を取ることが低速電子回折(LEED)の研究より知られている。しかしながらSTMによる実空間での報告例はほとんど無く、吸着構造が明らかにされていなかった。そこで、表面超構造のうち、(1)2x3とc(2x6)、(2)1x2、(3)シリサイドのそれぞれの構造についてSTM観察を行なった。まず、(1)についてはc(2x6)は2x3と同じ構成要素を有しており2x3が2x方向に半周期ずれることで形成されること、2x3構造はBa吸着量に依存せず1つの吸着構造しかないことを明らかにし、新しい吸着モデルを提唱した。次に(2)については、Baは表面でジグザグなチェーン形吸着構造をとり、この構造は鏡像な2つのユニットから成り立つことを明らかにした。また、ダイマー化したSi表面上にBaが吸着するモデルを提唱し、Baの吸着構造に関係無く電子回折で1x2が観察されることを説明した。(3)については、基板を加熱した状態でBaを吸着させるとテラス幅が広がり3つの表面構造が形成されるが、Baを蒸着後に試料を加熱すると表面はパッチで覆われ、2つの構造しか形成されないことが分かった。さらに、トンネル分光を測定することでシリサイドのギャップは約1.3eVであること、さらにある一つの構造は約2.5eVにピークを持ちこれはこれまでに光電子分光の研究で報告されているピークに対応することを明らかにした。最後に、Si基板の水素終端化について、Baは表面でクラスター化することから反応の制御の可能性があることを見出した。
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