今年度は、マッハツェンダー干渉型光スイッチに、特別な量子井戸構造を組み込むことにより、あるしきい値電圧(電界)付近で急峻に光の出力ポートが切り替わるような光スイッチの検討を行った。具体的には、コンピュータシミュレーションにより、量子井戸構造の最適化を行った。 通常用いられる矩形量子井戸の両方の端付近にある程度の厚さを持った障壁層を挿入することで、無電界時に中央の井戸に閉じ込められていた電子・ホールの波動関数が、電界印加時に左右の井戸に移動するようになる。障壁層の厚さを変化させることで、この波動関数の移動するしきい値電界を制御することができるようになる。また、電子とホールとで障壁をトンネルする確率が異なるため、左右の障壁層の厚さを最適化することで、効率よく波動関数を移動させることができる。このような波動関数の制御ができると、あるしきい値電界で急激に吸収が広い波長範囲にわたって減少するため、その結果として生じる屈折率変化も急峻かつ非常に大きなものとなる。その結果、デジタル的な動作が可能な光スイッチが実現可能となる。 このようなアイデアの下、InGaAs/InAlAs材料系について、量子井戸構造の最適化を行った。最適構造は、障壁層の厚さが2.7nm、中央の井戸幅が3.8nm、電子の波動関数のしみだしを促進するための井戸の井戸幅が5.6nm、ホールの波動関数のしみだしを促進する井戸の井戸幅が4.7nmであることが分かった。
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