研究概要 |
本研究では,高いS/Nの干渉波形を得るために,まず高安定・高出力な広帯域テラヘルツ(THz)波光源を実現することがキーポイントとなる。そこで,光損傷に高い耐性を示し,高効率・広帯域なTHz波発生特性を有することが期待されるMgOドープLiNbO_3(MgO:LN)結晶に対して,THz波パラメトリック発生特性を検討した。実験では励起光源にQスイッチNd:YAGレーザーを用いてドープ量1〜9mol%のMgO:LNのTHz波出力特性を測定した結果,5mol%を最適ドープ量とするパラメトリック利得の向上を見出した。さらに,このメカニズムをミクロな観点から検討するために自然ラマン測定を行った結果,利得に関わる250cm^<-1>モード(A_1対称モード)の散乱強度は5mol%で最大値をとり,THz帯の吸収係数に関わるフォノンモードの線幅も5mol%で最小値をとることが判明し,結晶性の向上に伴った非線形光学特性の向上・伝播損失の低減が利得向上に寄与していることを見出した。 次に,MgO:LN結晶を用いた高効率・高出力なTHz波発生デバイスに対する検討を行った。実験では,まずTHz波出力結合素子(Siプリズム)を結晶端面にアレイ状に配置してTHz波の高出力化を図った。これにより,従来の単一プリズムによるTHz波放射に比べて2桁以上のTHz波出力向上を達成した。さらに,高い利得を得るために結晶をカスケード状に配置し,結晶長を最適化することにより,周波数可変域30-120cm^<-1>(0.9-3.6THz)を達成した。本光源を常温動作の高輝度かつブローバンドのTHz波光源として用い,マーチン-パプレット型干渉計と組み合わせることにより,THz帯の分光計測システムを構築した。本システムを用いた水蒸気吸収スペクトルの計測にも成功し,特にS/Nの高い測定が困難であるTHz領域での分光計測における有用性を示した。
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