平成12年度の研究において次の成果を得た。 1)第一原理分子動力学法により窒化ケイ素の引張りおよびせん断変形解析を行い、その結果を良く再現する古典分子動力学用原子間ポテンシャルを構築した。構築したのは3体ポテンシャルであり、このポテンシャルより計算される格子定数、弾性定数、結晶構造は第一原理計算より得られるこれらの結果と十分な精度で一致した。さらには、理想引張り強度、理想せん断強度も十分な精度で第一原理計算の結果と一致することを確認した。これにより本連成手法に用いるポテンシャルが完成した。ただし、本ポテンシャルでは研究の第一段階として長距離イオン性相互作用を7Åに限定している。 2)第一原理計算領域と古典分子動力学計算領域の間の遷移領域での相互作用の計算手法について検討した。この領域の原子に働く力は、同一原子に対して第一原理分子動力学計算と古典分子動力学計算の両方で計算し、原子位置がどちらの領域に近いかで、これらの領域間でなめらかに変化する関数に従う割合で、それぞれの計算結果より得られる力を足し合わせることにより決定した。本研究で検討した第一原理計算結果を良く表現する3体ポテンシャルを用いた場合、このようにして決定した力でシミュレーションを実行し、両領域間の力の整合性が十分であることを確認した。 3)第一原理計算領域自動設定のためのアルゴリズムについて検討した。与えられたモデルの原子配置に対して原子の配位数解析を行い、配位数が完全結晶のそれと異なる場合、その周り7Åを第一原理計算領域として設定する。このアルゴリズムを使用することにより、原子構造の乱れた領域を第一原理分子動力学計算で扱うことができるため、解析全体の精度を高めることにつながる。
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