本研究の最終目的は浮力とコリオリカとが共存して働く乱流境界層における、乱流輸送機構の理解をLESを用いて行う事である。この目標を受けて、本年度は特にこういった外力が働く乱流境界層を良好に再現するSGSモデルの開発を主眼として研究を行った。 まず、SGS応力の渦粘性近似によるモデル化に対して一般に用いられるダイナミックスマゴリンスキー型渦粘性モデルの、熱的に中立な乱流境界層における問題点を指摘し、これに変わる渦粘性モデルの提案を行った(日本機械学会論文集掲載)。またこのモデルにさらに改良を加え、ダイナミックモデルにおける陽的空間フィルタリング操作に対する依存性の少ないモデルの提案を行った(Physics of Fluids掲載)。 次に、温度成層乱流境界層に対して、各種のSGSモデルの評価、並びに不安定成層下において現れる大規模渦構造の解析領域依存性を調べ、この渦構造がスパン方向解析領域に大きく依存する事を指摘した(流体力学会年会発表)。さらに安定成層下にある乱流境界層が壁面の加熱による熱的に不安定な変化を時間的に受けた場合、壁面近傍の乱流構造にどのような変化が現れるかを、気象学において接地層に対して一般に用いられるスケーリング則及び壁面近傍瞬時渦構造の二点から調べ、壁面での熱流束が負から正に変化する時、壁面近傍での熱擾乱が抑制され、熱流束によるスケーリングが困難になることを指摘した。 またこの種の浮力が働く数値解析で一般的に用いられるブジネスク近似において、乱流モデルにおける浮力の効果のモデル化に解が依存する事を考慮して、ブジネスク近似を用いずに密度変動をそのまま運動方程式に考慮する低マッハ数近似と呼ばれる手法をLESに適用し、その有効性を強制熱対流場(ベナール対流)において調べた(流体力学会年会発表)。特にこの問題に対して乱流モデルを用いない直接解析(DNS)を行い、適用したSGSモデルの有用性をアプリオリに検討した。 尚、本年度は回転効果については触れなかった。この問題については次年度に行う予定である。
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