本研究では動脈硬化発生・進展のメカニズムの解明、ならびに予防・治療法の確立を究極の目標に置き、主に生体流体力学の視点から、血管中膜に存在する平滑筋細胞が受ける流体力学的せん断応力が細胞の生理活性機能に与える影響を明らかにすることを目的として (1)せん断応力の影響を考慮した平滑筋細胞における物質反応・輸送機構の数値シミュレーションモデルの構築 (2)流体力学的せん断応力に対するカルシウムイオンチャネルの刺激応答の詳細を明らかにする実験 を行っている。(1)に関しては十分にコンセンサスの得られた反応・輸送機構のモデルが得られていないため、手探りの状態で特定の生理活性物質(低脂肪リポ蛋白:LDL)に対する現象論的モデルを構築しシミュレーションを行った。その結果、特に流れの影響を強く受けやすい血管の内弾性板近傍に位置する平滑筋細胞では、LDL吸収速度が大きく増加することが判明した。逆にATPなどの低分子量の物質ではほとんど流れによる影響を受けないことも分かった。(2)の実験ではカルシウムイオン濃度の測定にセレンテラジンという発光蛋白質を蛍光標識に使ったフォトン・カウンティング法を用いて、せん断応力刺激が「ON」と「OFF」それぞれの状態での平滑筋細胞の生理的応答・機能の違いについて調べている。この研究は現在も遂行中であり、現時点では、細胞表面の局所的なせん断応力分布が細胞機能に大きな影響を及ぼす可能性があることが分かってきている。その事を明確にするためには、今後、カルシウム濃度変化を画像として捕えるカルシウムイメージング法について別途検討する必要性が浮き彫りになってきている。
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