鉛直管内強制対流乱流場中における気泡の挙動は、原子力発電所や火力発電所の安全性の向上および設計の合理化を達成する上できわめて重要となる。そこで本研究では、ラグランジ座標を用いて各気泡の挙動を個別に追跡するEuler-Lagrangeモデル(ELM)により気泡挙動の予測を行った。本流動条件では、せん断の影響により液中に誘起される「乱流渦」および気液間の相対速度により気泡の後流に形成される「気泡渦」の影響により、気泡は確率論的かつ複雑な挙動を呈する。このため、気泡挙動に関して物理的に考察するとともに、無限静止水中および鉛直管内上昇流中における単一気泡の挙動に関する既存の実験データを活用し、これらの渦が気泡運動に及ぼす影響を評価するためのモデルを構築した。本モデルを使用してELMによる解析を実施したところ、気泡密度が十分に小さければ、様々な気泡径および液流速において実験的に得られている上昇流中の流路断面内気泡分布を良好に予測できることが示された。さらに、この結果を踏まえて本モデルを気泡数の多い場に適用し、気泡径および液速度が気泡分布に及ぼす影響を定性的に予測することに成功した。特に、既存の解析の多くは低液流速の条件で行われており、液流速が気泡分布に及ぼす影響は本モデルを使用して初めて考慮可能になったものである。なお、高気泡密度の場における実験データとの定量的一致を得るためには気泡運動に及ぼすた気泡の影響を考慮する必要があると考えられ、13年度における課題としたい。また、既存の実験データは、主に水・空気等の非沸騰条件で取得されている。しかしながら、本解析手法の重要な応用先の一つは一成分二相流中の気泡挙動の予測であるため、沸騰二相流中における気泡挙動に関するデータ取得を目的として沸騰ループを設計・製作し、ループの基本性能の確認を行った。
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