研究概要 |
本研究では,薄膜中のジュール発熱を,電子や原子のダイナミックスとしてとらえて,超微細スケールにおけるジュール発熱と電子・原子構造の関係を理論付けることを目的としている.そのために,薄膜中の電子移動によるエネルギー伝達を解析する新たな量子分子動力学計算スキームを開発する必要がある.本年度は,そのスキーム開発のために,まず金属・半導体中の自由電子の移動を量子分子動力学的に記述して定式化した.次に,導出された基礎式を,原子層数層程度の厚さを持つ半無限状に続く薄膜に適用した.簡略化のために,計算系中に1個の電子が存在して移動するモデル系を考えた.このような系に対して,解析プログラムを開発した.薄膜を構成する格子とそれらの電子間のポテンシャルは,クーロン型,湯川型ポテンシャルなどを適用し,格子と電子間のポテンシャルの強さや作用距離の影響範囲を変化させながら,電子移動距離に対する格子系のエネルギー増加量を算出した.次に,計算系の初期温度を変化させて,電子移動距離に対する格子系のエネルギー増加量を算出した.このような解析から,電子-格子間ポテンシャルが強くなる場合には,系のエネルギー増加量は大きくなり,移動距離に対するエネルギー増加量も大きくなることが分かった.また,薄膜系の初期温度が高いほど,それらのエネルギー増加割合が大きくなる傾向がみられた.このような基礎的な系におけるシミュレーション結果を定性的に考察して,日本伝熱学会主催の伝熱シンポジウムならびに日本機械学会計算力学講演会で報告した.
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