熱流体現象を用いた新しいマイクロアクチュエーターとして、表面張力の不均衡を熱的に与えて気泡が駆動される現象を利用しようとしている。今年度は、その基礎として、マイクロチャンネル中で発生した蒸気気泡の周囲の温度を熱電対で直接計測することを試みた。シリコン基板をKOHによる異方性エッチングによって溝を設け、その中に大きさ50ミクロン程度のヒーターをニッケル薄膜を局所的に細くすることで製作した。一方、ガラス基板上にニッケルとアルミの薄膜細線先端を100ミクロン程度重ねることでマイクロ熱電対を製作した、この二つの基板を重ねてマイクロチャンネルとし、電気絶縁性に優れたフロリナートで満たした状態で気泡を発生させ、チャンネルの高さを10ミクロンと100ミクロンの二種類で熱流体機構の違いを調べた。新規に購入した高速度ビデオカメラ撮影も併用して明らかになったことは、マイクロヒーターによる気泡生成が非常に強い温度勾配を持ったサブクール状態であることである。ひいては、ヒーターは強い過熱状態になっていることが予想できる。 次に、既に製作してあったガラス基板上の直線状マイクロヒーター群と、新たに製作したシリコンウエハーのエッチングによる溝およびガラス基板上のポリイミドによる溝をそれぞれ張り合わせて、ヒーター群が溝の中に並んだ状態のマイクロ流体デバイスを構築した。一個のヒーターをオンにして気泡を生じさせておき、そのヒーターをオフにすると同時に横のヒーターをオンにすることで表面張力の不均衡による移動(熱毛管現象)を検証した。シリコンに比べポリイミドの方が遥かに速い移動速度を記録した。この理由は基板の熱伝導度の違いであろうと予測している。すなわち、熱伝導度の良いシリコンではマイクロチャンネル内で温度勾配が生じにくく、駆動力が相対的に小さくなっていると思われる。
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