研究概要 |
クラスレートハイドレートの分解・生成に関する議論の中で重要なものの一つである記憶効果の原因を分子レベルで明らかにするために,圧力一定下において分解過程の分子動力学シミュレーションを行った.記憶効果とは「ハイドレート生成の履歴を持つ系が,再度ハイドレート生成をおこす熱力学条件下におかれた場合,誘導時間が短縮される現象」であり,ハイドレートの分解過程に影響されていると考えられているものである. 本年は,ゲスト物質としてメタンを用いた.メタンハイドレートの結晶状態を単位格子(メタン8分子,水46分子)3×3×3に配置し,P=50MPa,T=270Kで平衡化を行い,T=360K,380K,400Kの3通りの温度条件で分解した.境界条件には周期境界条件を用い,メタンの分子モデルにはOPLS-UA,水にはTIP4Pを用いた.また圧力一定の方法はAndersen法を用い,温度一定の方法はNose-Hoover法を用いた.シミュレーションは系が完全に分解するまでT=360Kの場合には1ns,T=380K,400Kは250ps行った. シミュレーション結果からシミュレーションセルの変化,平均二乗変位,動系分布関数,キャビティを形成する水5分子・6分子集合の生存確率などの解析を行い,分解過程を次の4つの過程に分けられることを見いだした.(a)分解が始まるまでの過程,(b)キャビティの崩壊を伴った分解が起こっている過程,(c)キャビティが崩壊した後に系が並行に至までの過程,(d)系が平衡状態にあり分解が完全に終了している過程.またそれぞれの過程は分解温度に依存しているが,確率的に決まるであろう(a)の過程を除くと,(c)は(b)の10倍ほど長く,(c)で起こっている相分離過程が誘導時間に何らかの影響を与えると考えられる.今後生成過程のシミュレーションよりさらに解析をすすめる予定である.
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