TEOS(珪酸エチル)とオゾンとの反応系を用いたCVD(化学的気相合成)によって、半導体デバイスの層間絶縁膜として用いられるシリコン酸化膜の合成が可能となる。しかし、信頼性に影響する膜表面形状としての品質(トレンチ埋め込み性)、および電気絶縁体としての品質(膜質)等において十分な性能が得られているとは言えない。本研究では、大気圧またはその近傍減圧下でも、非平衡プラズマが実現可能になる誘電体バリア放電に着目し、これをTEOSと酸素との反応系を用いたリモートプラズマCVDに応用した。そして、印加電圧方式と圧力を変化させることで、このCVD法によって得られるシリコン酸化膜の品質を検討した。なお、膜質評価には、漏れ電流と相関がある1:15バッファードフッ酸によるエッチング速度評価法を用いた。 大気圧下で低周波交流電圧(商用60Hz)を印加した場合、適切な基板温度、電力、そしてガスのプラズマ中滞留時間を与えた時、TEOS/オゾン系CVDと比較して高い膜質(エッチング速度約0.2μm/min)が得られるが、トレンチ(深さ1μm、アスペクト比1)への埋め込みは十分でない。しかし、大気圧下で方形波パルス電圧(250Hz)を印加した場合では、高いトレンチ埋め込み性が確認されるとともに、低周波交流印加の場合と同等の膜質も得られることが明らかになった。これは、この手法による高い非平衡性とエネルギーの短時間集中が、高品質膜形成を促す膜前駆体物質を生成しやすくしたためと考えられる。さらに、適切に大気圧より圧力を減少させれば(約80kPa)、低周波交流印加の場合でも、高いトレンチ埋め込み性が確認され、より高い膜質が得られることが明らかになった。これは、圧力減少とこれに起因する高い換算電界強度よって得られる高い非平衡性が、同様に高品質膜形成を促す膜前駆体物質を生成しやすくしたためと考えられる。
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