研究概要 |
商用周波数の電磁界が人体内に誘導する電流密度の分布に関して、静電誘導・電磁誘導の両者について、境界要素法による数値計算を実行した.計算の原理は、商用周波数の微弱電流場に関しては場をラプラス場として近似可能であることを利用するものである.電場の周期定常解を境界要素法によって計算した後に、導電率を考慮して誘導電流分布が計算される. 本研究において、人体モデルは2次Serendipityアイソパラメトリック要素によって表現され、モデルは滑らかな曲面で表現されている。また、臓器については心臓・脳・肺・肝臓・腸が回転楕円体形状近似により考慮されている.人体のポーズについては直立姿勢を基本として、腕部の姿勢を変化させた計算も実行した。物性定数としては誘電率と導電率を考慮し、従来の各種報告に現れる値を含めて5種類程度のケースについて計算を行なった.印加電磁界としては、通常の高圧送電線下での暴露を想定した一様電界・一様磁界、家庭内での電気製品からの暴露を想定したダイポール磁界を計算対象とした. 計算された誘導電界に関しては、特に臓器が比較的独立して配置されている場合には臓器内誘導電界は臓器の導電率に概ね比例して増大するが、配置形状が複雑になればこのような単純な規則は必ずしも成立せず、数値計算による本手法の価値が確認された。また静電誘導電流値に関してEPRIが提案している実験式を検証した結果、この実験式の精度は数10%程度であることが判明した。 今回の計算条件は、常識的に考えられる範囲で最も厳しい商用周波数電磁界暴露条件であったが,誘導電流値は最大でもICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の提案する暴露制限値に対して3桁程度低いという結果となった.ただし、臓器の形状の突出部や微細構造に起因して局所的に大きな誘導電流が生じる可能性については、今回の計算では明確にできなかった。人体モデルのさらなる精密化によりこの点に関しても研究を継続する予定である.
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