本研究は、直流用電力ケーブルにおける固体高分子電気絶縁への可能性を示唆するため、交流用電力ケーブル材料の一つであるポリエチレン系樹脂に注目し、高温および絶縁破壊直前における高電界電気物性を評価すると共にその中でも未知の部分が多く存在する絶縁破壊特性(絶縁破壊機構の解明を含める)を実験的に評価し、それらの結果から電力ケーブルにおける電気絶縁設計に基本的指針を与え、機器の絶縁性能の向上を目的とする。また交流用電力ケーブルが直流用ケーブルにそのまま移行できればコスト面においても有益であり、本研究は高温環境下における直流用電力ケーブルの絶縁設計上極めて重要な情報を提供でき得るものと考えられる。 ポリエチレン系樹脂の室温環境下における空間電荷特性、高電界電気物性および絶縁破壊特性を観測し、架橋ポリエチレン中に残留する架橋剤分解残さであるアセトフェノンとの関係について検討を行った。以下に得られた結果の概要を示す。 アセトフェノン塗布試料の絶縁破壊発生までの電界分布特性からおよそ1MV/cmから破壊が生じる電界領域においては塗布側電極の電圧極性に関わらず、陽極付近の電界が強調されていた。これは陽極電極近傍に負極性の空間電荷が形成されたためと考えられた。また絶縁破壊直前の電流の結果から、電流の大きさが絶縁破壊に影響していることが推察された。 5kV/mm程度の低い電界の印加においても試料内部に陽極から注入したと思われる正極性の空間電荷が蓄積していた。この蓄積電荷の大きさは印加電界が大きくなると増加する傾向が見られた。またアセトフェノンを陽極側に塗布した試料の短絡状態における空間電荷分布から、アセトフェノンの塗布により注入された正極性空間電荷はより内部まで移動していることが確認された。これらの結果から、5kV/mm程度の低電界領域においても電荷注入による空間電荷形成が生じている可能性が考えられた。
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