研究概要 |
本研究では,電気回路の概念を量子波動の解析および設計に導入し,工学的に見通しのよい手法の構築を目的としている.特にここでは,電子波エネルギーフィルタの解析・設計理論,電子波の時間域解析のためのディジタルフィルタモデルについて研究を行った.その概要は以下のとおりである.(1)従来,電子波を利用したデバイスにおいて一次元多層ポテンシャル構造が用いられる場合,有限長周期構造が用いられる場合がほとんどであった.しかしながら,同じ井戸幅とバリヤ幅が繰り返される有限長周期構造で実現される透過特性は,離散的な共鳴ピークが集まったものとなり,電子波の大きな透過率は得られない.そこで本研究では,ポテンシャル中を伝搬する電子波がマイクロ波回路中の電磁波と同様に,分布定数回路と集中定数回路が混在した等価回路で表現できることを示し,従来構造と比較して極めて大きな透過率を実現するポテンシャル形状の設計法を示した.また,得られた多層ポテンシャル構造は,有限長周期構造に比較して多重バリヤ内での準安定状態の寿命が短いため,電子波デバイスの高速動作に有利であることを示した.(2)電子波伝搬の時間域解析手法として,等価分布定数回路に基づくディジタルフィルタモデルを提案した.このモデルは,数値的安定性,計算量,アルゴリズムの容易さの面で優れており,本質的に並列計算向きの解法となっている.また,開放形の領域をシミュレートする場合に重要な,吸収境界条件を提案した.これにより,連続的な電子波の入射など長時間のシミュレーションを行う場合にも計算量を大幅に削減することができる.
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