対向ターゲット式スパッタ装置内に純度99.9%のCoおよびCuのターゲットを装着し、Co/Cu多層膜を作製した。巨大磁気抵抗効果は非磁性層厚の増減により抵抗変化率MR ratioが振動的に変化するが、磁界感度が良く工学的に重要な第2次ピークに相当するCu層厚を探索するべく、Co層厚は15Å一定でCu層厚を18〜28Åと変えて、[Co(15Å)/Cu(18-28Å)]_9多層膜を作製した。基板はSi(100)ウェハー、基板温度は室温とし、スパッタガスには1mTorrのArを用いた。この結果、Arガス圧4mTorrで作製した場合に、Cu層厚20nmで最大のΔR=0.15ΩおよびMR ratio=10%が得られ、デュアルイオンビームスパッタ装置で作製した多層膜のCu層厚22Åにおける最大のΔR=0.175ΩおよびMR ratio=13.5%には及ばないものの、堆積条件を最適化すれば更に優れた特性が得られる可能性が示唆された。MR特性の改善を目指してNi-Fe(50Å)、Si(50Å)の各下地層を用いたところ、Ni-Fe下地層では周期構造が乱れているにも関わらず、下地屑が無い場合と比べてほぼ同等のΔRやMR ratio値が得られ、Si下地層の場合にはΔR=0.07、MR ratio=4%とともに小さくなることが分かった。次に反強磁性層を作製するべく、金属Ni(99.9%)およびFe(99.9%)から酸素を装置内に導入した反応性スパッタ法によりNiOおよびα-Fe_2O_3層の表面熱酸化Si基板上への堆積を試みた。ここではArおよびO_2の全ガス圧力を2.0mTorr一定として、O_2分圧を0.1〜1.0mTorrと変えて作製し、膜厚は40nmとした。原子間力顕微鏡による観察からいずれの膜も中心線平均荒さは〜4nm程度と比較的平滑ではあったが、X線回折の結果から基板温度が室温では結晶化しないこと、また300℃程度の基板加熱でわずかながら結晶化するもののランダム配向であることが明らかとなった。 来年度は、結晶性に優れたα-Fe_2O_3およびNiO反強磁性層の作製条件を探索するとともに、それらと今年度に最適化が図られたCo/Cu多層膜を組み合わせたスピンバルブセンサーを試作する予定である。
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