研究概要 |
漏えい弾性表面波(Leaky SAW : LSAW)とその高次モードである第2LSAWは,通常のSAWよりも電気⇔表面波の変換効率が高い,音速が速い,温度特性が良いなどの特徴を持ち,SAWフィルタの高周波化,広帯域化,高安定化に有効であるが,その励振・伝搬の際,バルク波を放射するため損失が大きい.本研究では,『波動は速度の遅い領域へ向かおうとする』という性質を利用して,これらのバルク波放射が共にゼロとなるLSAW,すなわち『バルク波フリーLSAW』を実現させることを目的としている.本年度の研究実績を以下に示す. ランガサイト基板への適用:昨年度に引き続き,温度度特性に優れた基板として最近注目されているランガサイト基板上のLSAW伝搬減衰の低減を検討した.五酸化タンタル薄膜をオイラー角(0゜,140゜,67゜),および(0゜,140゜,42゜)のランガサイト基板に形成することにより,LSAWの伝搬損失が約1/10〜1/3に低減することを明らかにした.また,オイラー角(0゜,40゜,0゜)の第2LSAWの伝搬減衰が,薄膜装荷により比較的大きく減少することを理論的に示した 水晶基板への適用:誘電体薄膜装荷によるLSAW伝搬減衰の低減を水晶基板に適用した.五酸化タンタル薄膜を基板上に形成することにより,基板のある範囲のカット角においては,LSAWの伝搬減衰を低減できることを理論的に示した.また,実際に五酸化タンタル薄膜をオイラー角(0゜,128゜,33゜)の水晶基板に形成することにより,LSAWの伝搬損失が約1/2に低減することを示した.これは,LSAWの位相速度が基板のバルク波速度よりも遅くなるために,LSAWが無損失のラブ波型表面波になっていることに起因することを示した. 今後は,これらの成果を踏まえて次世代通信デバイス用低損失フィルタを検討したい.
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