研究概要 |
低速電子線用の蛍光体の研究進展が滞っている理由として,固体への電子線の侵入深さ,エネルギー伝達領域等についての解明が十分になされていないためである.これは低速電子線励起において,電子線の入射エネルギーの定量的な解析が不可能であったことが原因の一つである.我々はこれまでの研究で,低速電子線励起時における蛍光体の表面電位の測定方法を確立した.この方法により,低速電子線照射における固体表面への入射電子エネルギーが定量的に示すことができるため,低速電子線の侵入深さについての研究を行っている.まず,蛍光体の母体材料として代表的な硫化亜鉛(ZnS)への電子線の侵入深さについて実験的な側面から検討を行った. 電極上に形成した発光層の上にZnSを部分的に堆積させる.ZnSは非発光層であるので,電子線を照射すると,電子はZnSを通り抜け,発光層に到達することにより発光する.ZnSを介した部分と介さない部分とでは,異なる発光特性を示し,その差違から侵入深さを類推した.その結果,4keV以上の高速電子線照射の場合は,Feldmanの式に概ね一致する傾向が伺えたが,低速電子線領域においては,Feldmanの式よりも大きな値を示し,1keVにおいては20nm以上(Feldmanの式では約7nm),300eVにおいては10nm以上侵入している可能性が高いこどが類推され,低速電子線の侵入深さは,現在考えられている値よりもかなり大きなものであることが伺える.4keV以上の高速電子線領域においてFeldmanの式と概ね一致したということは,本実験の方法により正しく測定できていることを示唆するものと考えられる.
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