研究概要 |
本素子構造において,ダイヤモンド連続膜と孤立粒子の比較において,連続膜からの電子エミッション特性から,極めて低い閾値電圧(V_d=10V)の観測に成功している.このエミッション機構の相違を解明するために,走査型トンネル電子分光法(STS)による評価を行った.これは,局所的な表面電子状態を調べることが可能であるため,ダイヤモンド連続膜,孤立粒子における電子エミッションサイトの評価に有効である.測定評価試料は,アンドープ水素終端多結晶ダイヤモンド薄膜(Ti/石英基板)ならびにアンドープ水素終端ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜(高圧合成Ib基板)を用意した.ダイヤモンド多結晶連続膜のSTS像(dI/dV分布)から,状態密度はグレインバウンダリー部に多く存在することが明らかとなった.さらに,グレインバウンダリー部,グレイン中央部のトンネル電流-電圧特性の評価を行ったところ,グレイン中央部において,強いp形整流特性が観測された.一方グレインバウンダリー部においては,逆方向電流(サンプルバイアス負)が観察された.p形整流特性は,ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜にも同様に観測された.水素終端ダイヤモンド表面はp形半導体で界面準位が抑制されており,観測された整流特性はダイヤモンド表面のバンドベンディングにより生じたものと考えられる.以上,STS測定結果,トンネル電流-電圧特性結果から,電子エミッションサイトは,グレインバウンダリー部により多く存在することが明らかとなった.これにより,グレインバウンダリー部を多く含む多結晶連続膜が,本素子構造の電子エミッション特性において,より低い閾値電圧を示したものと考えられる.
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