近年、磁気メモリーに代わるデバイスとしてフラッシュメモリーが脚光をあびている。現状のフラッシュメモリーは、10万回が書き換え限度であり、磁気メモリーの1000万回以上に遠く及ばない。その原因として、データ書き換え時のトンネル酸化膜の劣化があげられる。これを回避する新たなトンネル絶縁膜としてシリコン酸窒化膜が注目されている。我々のグループは、平成8年度より、高活性なプラズマの生成が10^<-2>Pa台の高真空域でも容易に実現できるECR(Electron Cyclotron Resonance)マイクロ波プラズマとSiターゲットからスパッタリングを組み合わせたECRスパッタ法を用いて、高品質な各種シリコン系絶縁膜の低温形成に関する研究を行っている。これまで、40nmで絶縁破壊電界が12MV/cmの高耐圧シリコン酸窒化膜の作製に成功している。さらに、トンネル絶縁膜として求められる薄膜化を目的として、膜厚10nmの高い絶縁破壊特性を有したシリコン酸窒化膜の低温形成手法の確立を目指して研究を進めている。 このような背景および実績を踏まえて、本研究では、これらの絶縁破壊特性に優れたシリコン酸窒化膜の構造的な評価を行う。これらの膜の構造と絶縁破壊特性およびプラズマ状態との相関を明らかにすることにより、10nm以下の高品質なシリコン酸窒化膜の低温形成手法の確立を図る。平成12年度は、40nm膜厚のシリコン酸窒化膜の膜構造と絶縁破壊特性の相関を詳細にAESで調べることにより、SiOxNy膜のyが0.25〜0.45の領域にあるものが優れたシリコン酸窒化膜の優れた耐絶縁破壊構造を持つことを明らかにした。さらに、XPS測定によりyが0.25〜0.45付近のSiOxNy膜のNl s XPSスペクトルにおいて、398eVのN-(Si_2O)の結合に起因する成分が強くなっていることがわかった。我々のグループでは、ECRスパッタ法により10nmのシリコン酸窒化膜の作成を試みたが、充分な絶縁破壊強度が得られなかったが、ECRスパッタを行う前にプラズマ酸化を行う成膜法を適用することにより、優れた絶縁破壊特性を有するシリコン酸窒化膜が得られた。 平成13年度は、平成12年度の研究成果を基に、10nmのシリコン酸窒化膜膜成膜時のプラズマ酸化効果を膜構造を詳細に調べることにより明らかにした。膜構造はXPS測定により行った。 測定結果は、プラズマ酸化を行ったシリコン酸窒化膜のシリコン基板から1.3〜3nmの領域は、プラズマ酸化を行っていないものに比べて、結合ネットワークが秩序的であった。この秩序性が、優れた絶縁破壊特性をもつシリコン酸窒化膜の3〜10nm領域のSi-O-Nの級密な結合ネットワークに影響を与えたものと思われる.
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